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『生か死か』あらすじ

(せいかしか)



【解説】
 十二代目田辺南鶴の作。終戦直後の混乱する東京を舞台にした新作で、絶望して死のうとする主人公のあれよあれよという展開が面白い。十二代目南鶴の流れを汲み、今でも田辺派の方々がよく演じる。

【あらすじ】
 終戦直後の話。高橋金兵衛は65歳でゴムの工場を営んでいた。事業に失敗し多額の借金を背負っている。妻は3月10日の東京大空襲で亡くなっている。一人息子のの孝太郎は特攻隊で戦死していた。もう生きていてもいいことなど何もない。自殺しよう牛込薬王寺の自宅を出る。電車を乗り継いで吉祥寺の駅へ向かう。都心を離れると電車の中の客はまばらだった。向かいの席を見ると倅の孝太郎がいる。戦死したのいうのは誤報あったのか。ジロジロ見ていると、その青年も金兵衛に気づき嫌なジジイだなと思う。その賤しい目を見て金兵衛はこれは倅ではない、他人の空似だと思う。
 電車は吉祥寺に着き、駅からやや離れた場所にあるヒダ村の別荘に向かう。その前には例の青年が歩いている。他に人通りのない寂しいところで、青年はクルリと振り返り、金兵衛にピストルを突き付ける。しかし死にたくてしょうがなかった金兵衛は驚かない。いっそのこと殺してくれ。その堂々とした態度に、青年は「どこかの親分さんに違いない」と勘違いをする。「見損なってすみませんでした」、金兵衛に何やらギュッと握らせ、青年は去っていく。見るとそれは百円札で2万円の札束であった。
 これから死のうと思っていたのにこんな金があってもしょうがない。交番に向けて歩いていると、足元にコツリと何かが当たる。見ると赤皮のカバンで横をザックリ切られており、中には書類やら小切手やらが大量に入っている。誰かが奪って金を盗り、ここに捨てたのであろう。名刺を見ると『中村進三郎』とある。これは中村屋さんの社長のカバンではないか。届けてあげようと電車に乗り、新宿三丁目まで行く。「助かりました」、中村進三郎はお礼として10万円の札束を差し出す。大金であるが、借金を返すにはとても足りない額だ。
 歌舞伎町まで行き、「紅葉」というキャバレーに入ると秘密の地下室があり、そこが日本間のバクチ場になっている。金兵衛は丁半をするが、丁と張れば丁が出、半と張れば半が出る。この日はツキまくり、2000万円という金が手元に入る。これだけ金があるのなら死ぬのはやめようか。
 自宅まで帰ろうとすると、後をピタピタと付いてくる男がいる。先日のピストルを突き付けた青年であった。あれから気になって様子を伺っていたが、その大胆さはやはりどこかの立派な親分さんでしょうと言う。金兵衛はそうではないと言い、二人で牛込薬王寺の自宅へと行く。青年はシベリアの辰、本名を山瀬辰造といい、特攻隊の生き残りであるという。8月15日までは神様のように言われたのに、それ以後は厄介者にされてしまった。家族はみな空襲で死んでしまったと言う。金兵衛は自分の倅の孝太郎も、特攻隊で死んでいると話す。金が出来たので事業をやり直そうと思っていると言う。辰造に自分の倅になってくれ、これから一緒に頑張り合おうと言う。
 辰造は承知しながらも3年の間だけ待ってくれ、警察に行ってこれまでの様々な悪事を償ってこようと思うと語る。金兵衛の家の仏間に通され、孝太郎の遺影を見ると「これは私の戦友です」と辰造は驚く。孝太郎の仏前で「縁あってあなたの弟になります」と手を合わせて報告する。辰造は「行ってまいります」と直立不動で礼をする。その姿は孝太郎にそっくりであった。




参考口演:田辺鶴遊

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