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『蛇の目坊主』あらすじ

(じゃのめぼうず)



【解説】
 金襖物の連続講談『仙石騒動』の一番最初の部分として演じられる。太閤秀吉の命を狙って忍び込んだ石川五右衛門を捕らえた仙石秀久が、出石藩仙石家の初代藩主となったからであり、お家騒動としての『仙石騒動』の話とは直接の関連はない。
 石川五右衛門の子分、権六の倅の五郎は石田三成から加藤清正の殺害を依頼される。短筒を持って忍び入った五郎だが、暗殺は失敗。逆に捕らえられる。清正は五郎に真人間になるように言い、小柄で額に蛇の目の定紋を刻み付ける…。

【あらすじ】
 太閤秀吉があまりに奢りを極める。そこで三好関白秀次は石川五右衛門に命じて秀吉の寝首を掻かせようとする。五右衛門は聚楽の屋敷へ忍び入ったが、夜詰めの番をしていた仙石権兵衛秀久の足を踏んでしまい、捕らえられた。石田三成をはじめとした五奉行は、誰に頼まれて秀吉を殺そうとしたのか問い詰めるが、五右衛門は白状しない。ただ千鳥の香炉を盗みに来ただけだと言う。すると秀吉が怒った。五右衛門を今までにないような極刑に処せという。すると五右衛門の子分連中は、自分たちも親分と同じ罪にしてほしいと名乗って出る。
 五右衛門の一子分である筑紫の権六も出頭するつもりだが、その前に倅の五郎を呼びつける。俺の倅だから堅気にはなれないだろうが、貪欲非道な奴がいたらそいつから金を盗み出し、その日の暮らしに困っている人たちに分けてやれという。仕事がしやすいようにと、権六は五郎に木火土金水を操る五遁(ごとん)の忍術を教える。権六は、お上に名乗り出てお仕置きを受ける。五郎は、父親の遺言どおり盗人になる。すばしっこい五郎は、誰いうとなく「韋駄天(いだてん)の五郎」と呼ばれるようになる。
 ある日、五郎は石田三成の屋敷に忍び入り、ご金蔵から千両箱を盗み出すが、見張りの家来たちに追い込まれる。五郎は忍術を使って忍び入ったと言うと、三成はその忍術を見せろと言う。五郎は猫に化け、皆が気を取られているうちに千両箱と共に姿を消してしまう。
 それから5,6日経った雨のシトシト振る日の夜、三成は机に向かい書見をしている。すると五郎が入って来た。二人で話をし、そのうちに五郎は帰っていく。こんなことが何回か続く。ある日、三成は加藤清正の屋敷に忍び入り、彼の寝首を掻いてもらいたいと頼む。加藤清正と言えば人徳のあるお方だと聞いている。そんな方を殺すわけにはいかないと五郎は言うが、三成はそれは表向きのことであり、実は清正は豊臣の天下を横領しようとしている大悪人だという。結局、五郎は清正殺害の仕事を引き受けた。
 夜、五郎は清正の屋敷に忍び入る。清正は仏間で題目を唱えている。襖を少し開けると、線香の煙がすっと動く。「誰じゃ」、清正はグッと睨む。その恐ろしい顔に驚いて五郎は慌てて屋敷から逃げ出した。三成に報告すると、今度は短筒を渡される。五郎は翌日も同じ刻限に忍び込む。仏間の襖を少し開け、短筒を清正に向ける。撃った弾は清正の耳元をかすめる。夜詰めの家来たちは逃げる五郎を捕り押さえる。五郎は清正の前に引き出される。清正は心を改めて真人間になれば助けるという。清正は小柄で五郎の額に加藤家の家紋である蛇の目の定紋を刻む。再び悪心を起こしたら、水鏡で額に刻まれたこの蛇の目の定紋を見よといって、25両の金を渡す。
 清正は悪人でなかった、三成に騙されたと五郎は思う。五郎は頭を丸めて坊主になり、額の定紋は頭巾で隠し、ドンツクドンドンと団扇(うちわ)太鼓を叩きながら、今までの罪障の消滅のために諸国を行脚してまわる。
 そして関ヶ原の合戦である。清正は徳川に味方をし、その功績で熊本74万石の大大名となる。五郎は熊本へと向かい、加藤家の菩提寺である本妙寺でドンツクドンドンと団扇太鼓を叩く。しばらくして寺に清正が墓参に現れる。五郎は素知らぬふりをするつもりだったが、そこへ風が吹いてきて、五郎の額を隠していた頭巾が飛んでいってしまう。清正と五郎は対面する。清正は住職に頼んで小さなお堂を造ってもらい五郎をそこに住まわせる。五郎は人々から『蛇の目坊主』と呼ばれ、84歳まで生き、このお堂のなかで生涯を閉じたという。




参考口演:一龍斎貞水

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