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『新門辰五郎 おぬいの義侠』あらすじ

(しんもんたつごろう おぬいのぎきょう)


【解説】
 新門辰五郎(1800?〜1875)は江戸時代後期の火消しであり侠客である。侠客の元締め的存在であり、的屋を取り仕切って財力も豊かであった。幕末から明治期にかけて十五代将軍・徳川慶喜の警護の役目を引き受け、娘は慶喜の妾になる。
 火消しの若頭、新門辰五郎に「おぬい」という女が押し掛け女房になる。おぬいに惚れていたいた男により、辰五郎は火の中に突き落とされ大火傷を負う。火傷を治すには五十両という高額の薬がいる。おぬいは「愛想が尽きた」という手紙を残して辰五郎の元を離れてしまう。ある日、辰五郎の世話をしていたお花という娘は、浅草で見知らぬ侍から50両の金を渡される…。

【あらすじ】
 新門辰五郎は、元々はタバコ屋の息子だったが、店から火事を出してしまい父親を亡くす。『を組』の頭取、仁右衛門の養子になって今は火消しの若頭である。浅草・誓願寺店(せいがんじだな)で弟分の留吉と暮らしていたが、明神下の芸者、おぬいが辰五郎に一目惚れし押し掛け女房になる。
 ある日の八つ、今でいう午後の2時頃半鐘の音がする。火事は近い。火事装束を身に着け、留吉とともに御徒町の下田屋まで行くと火はすでに燃え広がっている。夕方になっても火は消えない。「兄貴が怪我をした」。留吉が戻ってきた。戸板に乗せられた辰五郎は血だらけでひどい火傷を負っている。は組の伝五郎はおぬいに惚れていのだが袖にされてしまった。恋の恨みから屋根の上にいる辰五郎を火の中に突き落としたのだ。さっそく医者に診せるが、火傷を治すには50から60両もの金がかかると言う。
 戸を叩く音がする。留吉が出ると60歳くらいの男と18歳くらいの綺麗な娘が立っている。神田のトコロテン売りで、男は甚兵衛、娘はお花という。以前危ういところを辰五郎に助けられたことがあった。その恩人の辰五郎が怪我をしたと聞いて心配で駆け付けてきたという。おぬい一人では大変だろうと、お花はこの家に残って看病の手伝いをすることになる。
 10日ばかり経って、辰五郎は少し口がきけるようになった。その晩、おぬいは「ちょっと用があるから」と言って家から出かける。お花は帰りを待つが、夜が更けてもおぬいは帰って来ない。ふとみると、辰五郎に飲ます薬の脇におぬいの残した書き置きがある。「こんな情けない亭主とは一緒にいられない。先々の事も不安なので、以前世話になったお客の元へ行く。今後、お前さんはお花を女房にしてくれ」。こんな愛想尽かしの手紙であった。「ちくしょう」と悔しがる辰五郎と留吉。
 その後、お花は付きっきりで看病し、夜は浅草の観音様に裸足詣りをする。ある夜のこと、お詣りの帰り道に一人の侍と出くわす。「なぜ毎夜お詣りをするのか」と侍が尋ねてくる。お花が事情を話すと、侍は50両を差し上げようという。「見ず知らずの方からそんな大金頂けません」とお花は断るが、侍は無理矢理、お花の袂に50両の包みをねじ込んで名乗りもせずに去って行ってしまう。あのお侍は観音様の化身であろうか。
 これで火傷治療のための良い薬が買える。医者に頼んで辰五郎に薬を飲ませると、みるみるうちに回復し、2ヶ月ほどで立って歩けるほどになる。
 吉原の引手茶屋の座敷で『を組』と『る組』が顔を合わせることになる。を組からは養父の仁右衛門、弟分の留吉も参席する。そこへ一人の芸者が現われた。その芸者こそおぬいである。留吉はおぬいを殴ろうとし、また仁右衛門は「芸者とは浮気な稼業だな」となじる。おぬいは泣いてしまう。そこへお勝という気の強い女が現われ、真実を話す。辰五郎の薬代の50両はおぬいが身を売って拵えた金で、愛想尽かしの手紙も浅草の観音堂に現れた侍も仕掛けてわざとやったことであると明かす。「すまねえ、勘弁してくれ」と謝る仁右衛門。「もう一度2人を夫婦にしてやろう」。仁右衛門が金を出し、おぬいを身請けをし、2人を再度添わせる。しかし、心労が祟ったためがおぬいはこの後長生きは出来なかったと言う。おぬいが夫、辰五郎のために身を挺して助けたという『新門辰五郎 おぬいの義侠』という一席。




参考口演:神田すず

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