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『出世浄瑠璃』あらすじ

(しゅっせじょうるり)



【解説】
 秋の碓氷峠を舞台にした話で、紅葉の峠道の情景が目に浮かぶようである。六代目宝井馬琴がよく掛けていた読物で、現在でも演じる人は多い。
 信州松本の城主、松平丹波守は参勤交代で江戸に向かう途中、碓氷峠で「浄瑠璃」が聞こえてくるのを耳にする。信州上田、松平伊賀守の家臣で尾上久蔵と中村大助の2人が演じるものであった。丹波守は2人に自分の前でぜひ聴かせて欲しいと頼む。道中で浄瑠璃を語ったなどと殿様に知られては大変と2人は一度は断るが、ほかならぬ丹波守の頼みとあって、内密にということで浄瑠璃を語る。さて「内密」というはずであったが…。

【あらすじ】
 信州松本の城主、松平丹波守とその一行は、参勤交代で江戸に向かっていた。差し掛かったのが碓氷峠。秋の真中、一面の紅葉に覆われていた。丹波守は乗り物を止めてしばし景色を眺めていると、ふもとの方から節の面白い唄声が聞こえてきた。お付きの者に尋ねると最近江戸で流行り始めている「浄瑠璃」というものだと言う。唄っていたのは信州上田、松平伊賀守の家臣で尾上久蔵と中村大助という二人で、丹波守の駕籠の前に呼び付けられた。丹波守は二人に浄瑠璃を聴かせてくれるよう頼む。二人は道中で浄瑠璃を語ったなどと殿様に知られては大変と一度は断るが、丹波守はこの場限りの事で他言はしないと約束し、他ならぬ大名の頼みと、中村が口三味線、尾上が太夫で浄瑠璃「関の扉(と)」を語った。聴き終わった丹波守はたいそう喜び、礼の金品を与える。二人は上田の城中へ戻り、丹波守は江戸へ出府する。
 丹波守と伊賀守は同じ信州の城主という事で親しい間柄。それから三年後、江戸の殿中でよもやま話をしていると碓氷峠の紅葉の話題が出た。そこで丹波守は思わず、三年前、伊賀守の家来が、というところまで話をしてしまうが、あの時の二人との約束にはっと気づく。浄瑠璃の話をする訳にはいかない。そこで伊賀守の家来二人が手の付けられない暴れ猪を見事に退治したととっさの嘘を付く。伊賀守は感心し、その者たちの名前を尋ねる。丹波守は尾上久蔵、中村大助という二人の名前を言ってしまう。その場に居合わせた他の大名は、武勇に優れた良い家臣をお持ちだと褒め称え、伊賀守は上機嫌。
 屋敷に戻った伊賀守は、すぐさま尾上久蔵と中村大助という二人の家来を探させる。幸いにも二人とも江戸詰めであった。三年前の碓氷峠での出来事を聞きたいと二人は伊賀守の前に呼び付けられ、浄瑠璃の件が知られてしまったかと戸惑った二人だが、なぜか伊賀守は猪を退治したであろうと尋ねてくる。やはり正直に語った方が良かろうと「関の扉を唸った」と言うが伊賀守は「関の扉」である碓氷峠にて猪を退治したのだと勘違い。こうなったら仕方ないと尾上久蔵は、丹波守に襲い掛かろうとした猪を退治したとの虚構の話を講談の調子で滔々と語りはじめる。話を聞いた伊賀守は大喜びをし、二人は百石の加増となったが、一方で困惑する。
 なぜ浄瑠璃の話が猪退治の話に変わってしまったのか、二人には分からない。丹波守の屋敷を訪ねるとお目通りが叶い、理由を聞いた。丹波守から、この件は時機をみて伊賀守に本当の事を話すので、殿様に対して忠勤に励むよう言い聞かされる。二人は真面目に勤め、伊賀守の立派な家臣となった。
 三年の後、殿中で丹波守は伊賀守に本当の事を話す。呆れた伊賀守だが、考えてみれば二人とも今では上田の城中で屈指の人物である。立派な家臣が二人出来て二百石くらいは惜しくないと伊賀守も納得した。二人はますます忠勤に励み、尾上と中村の家名は幕末まで長く続いたという。




参考口演:一龍斎貞心

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