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『楠木の泣き男』あらすじ

(くすのきのなきおとこ)



【解説】
 元は上方の読物で、東京では田辺派の方々がたまに演じる。
 楠木正成公は赤坂千早城へ移るに際して、一芸に秀でた者を家来として募集することにする。そこに現れたのが、百姓の佐兵衛という男であった。彼は自分が話をするとどんな相手でも泣いてしまうと言う。正成公は佐兵衛の話を聴くが、そのうちに思わず泣いてしまった。佐兵衛は正成公に召し抱えられることになる。これが面白くないのが今まで泣いたことが無いという兼好坊という男。佐兵衛の話を聴いて、もし泣かなかったら彼の頭を粉々に打ち砕いてしまうと言う…。

【あらすじ】
 楠木正成公は赤坂千早城へ移る際に家来を増やそうと、一芸に秀でたものを募集することになり堺の町に高札を立てた。次々と男たちが集まり、神宮寺太郎左衛門が選考する。水練が得意な者、木登りが得意な者。一人、人を泣かせるのが特技だという者が現れた。自分が物語を語るとどんな人でも泣いてしまうという。さっそく姥捨山の話をすると太郎左衛門が泣いた。感心した太郎左衛門は男を特別に正成公に会わす。この男は杉本村の百姓の佐兵衛という。正成公には帝の座を乗っ取ろうとする弓削道鏡を阻止しようした忠臣の和気清麻呂が、大隅国へ流された話をする。やはり正成公はホロリと涙を流す。泣き男は当家に召し抱えられることになった。
 これを聞いた八尾の兼好坊は、面白くない。佐兵衛を呼び、自分は生まれてこの方泣いたことがない、この私を泣かせてみろと言う。もし泣かせることが出来なかったら、十二貫目の金棒で頭を粉々に打ち砕くと言う。逆に佐兵衛が泣かせられたら、兼好坊が命の次の大切にしている刀を渡すことになった。
 佐兵衛が兼好坊に語った話。昔、都から離れた山の上に一人のお坊さんが庵を結んで、ありがたいお経を唱え、また講義をしている。ある時、目が鋭く髭を蓄えた男がこのお坊さんの講義を聴いていた。男はお坊さんに実は私は山上に住む龍であるのだが、あなたの尊い御仏の教えを学びたいと言う。こうしてお坊さんと龍の男は無二の親友となった。
 その後、国では日照りが続いている。帝はお坊さんに頼み、龍に雨を降らせて貰いたいという。しかし雨を降らすかどうかは、天の神様が決めることであり、龍が勝手に雨を降らすわけにはいかない。しかし龍はありがたい教えを説いて頂いたお坊様の言うことだからと地上に雨を降らせる。シトシトと暖かい雨が降る。しかし、掟を破ったことで龍は山の上の池で八つ裂きにされてしまう。龍の血で紅色になった池の水を見ながら、お坊様はいつまでも泣いていたという。
 ここまで佐兵衛は話したが、兼好坊は泣かず、佐兵衛の頭を砕こうとする。佐兵衛はあと一言話させて欲しいと言う。実は自分は元は百姓などではなく大崎小次郎という侍であり、父親の仇である高時入道を討ちたく思ってきたがここで兼好坊様に殺されてしまうのではそれも叶わない。兼好坊様に、私の代わりに入道の命を取って欲しいと頼む。兼好坊は約束したと言ってポタポタ涙を流した。佐兵衛は今のは作り話であり、やはり自分はただの百姓であると明かす。さすがと兼好坊も感心し、佐兵衛に刀を与える。
 この後、杉本佐兵衛は敵の大軍を欺き、大きな手柄を立てたという。




参考口演:田辺一乃

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