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『黒雲お辰』あらすじ

(くろくもおたつ)


【解説】
 支配される側である民百姓が領主を助けるという、変わったプロットの読物。
 大和国黒木村の黒木大和守は貧乏な旗本である。これに見かねた領民たちは、上の者に賄賂を渡せば大和守にも良いお役がまわってくるかもしれないと、金を集める。その金を新兵衛という者に江戸まで持っていかすが、両国橋付近の人だかりの中で盗まれてしまう。川に身投げをしようとする新兵衛を助けたのは、「黒雲のお辰」という女のスリの胴元であった…。

【あらすじ】
 享保5年のこと。大和国黒木村は旗本である黒木大和守の領地であった。領主ではあるものの大和守は貧乏で、歌で生活の苦しさを歌いこむ有様だった。これに見かねた領民は、賄賂を使えば大和守にもそれなりのお役が付くかも知れないと、村民から金を集める。75両の金が集まり、正直者として名が通っている新兵衛にこの金を江戸の大和守の屋敷まで届けてもらうことにする。
 江戸に着き、馬喰町の宿に泊まった新兵衛。昼に宿を出て、両国橋の辺りに差し掛かると大変な人でごった返している。今日は両国の川開きで夜には花火が上がる。金を届けに小石川の鷹匠町の大和守の屋敷へたどり着いた新兵衛。見ると袂が切られ、胴巻きが無い。荷物は宿に忘れたと屋敷を離れる。村の者たちに申し訳ない。行く当てもなくウロウロし、昌平橋まで来ると袂に石を入れ身を投げようとする。そこで27,8歳の女性に引き留められる。
 近くの小料理屋で事情を話すと、私に任せてと女は出掛け、しばらくして店に戻ってくる。女が持ってきたのは財布が15,6個。合わせて金は80両ある。これに女が5両足し75両は大和守の元へ、残り10両は帰りの路銀にしてくださいと言う。この女は「黒雲のお辰」という江戸市中を荒らしまわるスリの胴元で、これら財布も手下の者たちから集めたものである。もう生涯江戸には来ることはなかろう、何か礼をしたいと新兵衛は言う。私もこういう稼業をしているからにはいつか捕まり晒し首になるだろう。そうしたらお経のひとつ、折れた線香の1本でも手向けてください、黒雲のお辰はこう言う。
 大和国黒木村へ新兵衛は戻り、江戸での出来事を女房や村の和尚に話す。盗人にも効くお経として、和尚から観音経を教わる。家の庭に「江戸」「黒雲のお辰」と刻んだ墓を建て、毎日墓前で観音経を唱える。
 10年経ち、黒雲のお辰は250〜260人という手下を抱える胴元となっていたが、ついには捕らえられ死罪を待つ身となる。大岡越前がお取調べになると、自分を身代わりに死罪にしてくださいという者が十数人も現れる。これほど人から感謝されているのなら命を助けてやりたいと思う越前だが法を曲げる訳にはいかない。死罪にするには月番老中の印が必要だが、なぜかお辰のところだけ印が無い。その次の月も、さらにその次の月も同様である。これは黒雲のお辰を善の道へ導くようにとの天のお達しに違いない。白洲に呼び出しかつて人助けをしたことはないかと質すと、黒雲のお辰は10年前の出来事を話す。その大和国黒木村の新兵衛というものが、打首になるのを防いでいるのだと越前は言う。
 越前の提言で頭を丸め尼になった黒雲のお辰は、妙達と名を改め諸国を行脚する。名古屋から伊勢へ、そして大和国黒木村へ。一軒の家の庭に綺麗に掃除された墓があり「黒雲のお辰」と刻まれている。ここが新兵衛の家に違いない。十数年ぶりに再会した二人は共に涙を流す。新兵衛は繰り返し礼を言い、妙達もまた礼を繰り返す。妙達は新兵衛が観音経を教わった寺の仏弟子となって庵を結び、この村で生涯を暮らしたという。




参考口演:田辺凌鶴

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