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『寛永三馬術 曲垣と度々平』あらすじ

(かんえいさんばじゅつ まがきとどどへい)


【解説】
 連続物である武芸物『寛永三馬術』の中のひとつで、しばしば独立して演じられる。馬術の名人・曲垣平九郎とそこに乗り込んでくる度々平(どどへい)という男の珍妙なやり取りが、とくにストーリーらしいストーリーも無く続く。珍妙なことをしでかすのが曲垣平九郎であり呆れるのが度々平であったり、或いはまたその逆であったり、笑いどころの多い読物である。

【あらすじ】
 寛永11年のこと。曲垣平九郎は讃岐・丸亀藩の馬術指南役である。現在国詰めで丸亀に住むが、一人暮らしで部屋の中は荒れ放題である。5月の梅雨時で雨がしとしと降っている。そこへ一人のボロボロの身なりの男が「ごめん下さいまし」と訪ねて来る。この男は九州筑後・柳河から来た度々平(どどへい)という百姓の倅で、親も兄弟も無く、日本一の馬術の腕前を持つ曲垣先生の元に仕えたくてはるばるやってきたと言う。身元の請け人はないのだが、退屈しのぎにもなると平九郎はこの男を家に置いてやることにする。度々平の立ち振舞いから、彼は百姓などではなく、武芸に相当に熟練した侍であると平九郎は見抜く。果たして曲垣流の馬術を盗みに来たのだろうか。
 雨に濡れている度々平は着替えがないからと平九郎の衣服を借りるが、勝手に一番上等な服を選んで着てしまう。度々平は兄弟分になったみたいだと言うが、平九郎はあきれ果てる。お膳の上に古びた沢庵が1本ある。カビみたいなものが付いているが、平九郎は毎朝、甕(かめ)の水で洗っているから大丈夫だと言う。これを聞いて度々平は先ほど甕の水を飲んだが道理でしょっぱかったはずだと唖然とする。さらに平九郎は、この甕の水にはボウフラが湧いている。3、4日もすればお前の口から蚊が飛んで出て来るだろうと言う。度々平はもはや返す言葉もない。その夜は二人酒を酌み交わして寝る。
 翌朝、平九郎が目を覚ますとあれほど汚かった部屋が、すみずみまできれいに掃除されている。馬もキチンと手入れされている。度々平はクルクルよく働き、平九郎は感心する。
 数日経って、酒とウナギの蒲焼を買いに度々平は出掛けるが、いつまで待っても帰ってこない。気になった平九郎が様子を見に出かけると、片手に酒樽、もう片手に岡持ちを持った度々平が帰ってくるところである。度々平の姿を平九郎は陰から見る。すると横丁から一人の侍が出てきて、何やら度々平と話をしている。そのうちに二人は喧嘩になる。度々平は酒樽を叩きつけるが底が抜け酒が流れ出してしまう。刀を抜いた侍は度々平を斬りつけようとするがこれをヒラリヒラリとかわす。度々平は岡持で殴りつけると見事に命中し、侍は逃げ去っていく。しかしこの際に岡持ちの中の蒲焼が地面に散らばってしまった。度々平は蒲焼を拾い、砂を払って、唾を付けた手ぬぐいで拭いて岡持ちの中に戻す。隠れて一部始終を見ていた平九郎。
 平九郎は先回りして家に戻り、やがて度々平も帰って来た。度々平が見せた蒲焼はやけに白っちゃけている。とぼけようとする度々平だが、蒲焼にワラや馬糞が付いているではないかと問い詰めると、「先生、見ていたんですか。ばれちゃった」と度々平は白状する。度々平が語るには、先ほどの侍は萩原清左衛門の甥である斎(いつき)という者で、叔父の萩原の屋敷の場所は知らないかと尋ねてきた。度々平は「知らない」と答えるが、「侍に向かってその口の利き方はなんだ」と怒った斎と喧嘩になったと言う。萩原清左衛門といえば、藩の重役である。困ったことになったと思う平九郎。
 翌朝早く、平九郎は城へと呼び出される。日もとっぷりと暮れた頃、平九郎は家に戻って来た。平九郎は度々平に城内での出来事を話す。やはり昨日の喧嘩の件であり、藩の重臣が並ぶなか、不届き者の度々平を差し出せと言う。しかし平九郎はこれを断った。斎殿は、度々平の主人であるこの平九郎に直接訴えず、なぜ他の者の手を借りるのだ。重臣たちと平九郎、両者話がまとまらず、結局平九郎は食禄100石を返上して丸亀藩を去ることになる。本日から無禄の浪人になってしまった平九郎。度々平は両手を付いて詫びる。この先どこまでも付いて行きます、度々平が言うと平九郎はニッコリ笑う。
 翌朝、主従二人は旅へと出立する。3年間方々を訪ね歩いたのち、越前国にて殿様の面前で馬術を披露し、藩へのお召し抱えが叶う。この時、度々平の正体も明らかになるのだが、その話はまたいつの日か。




参考口演:宝井琴柑

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