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『彼女の行方』あらすじ

(かのおんなのゆくえ)



【解説】
 昭和初期を舞台にした、十二代目田辺南鶴作の新作。現在でも、田辺派の方たちが高座にかける。波子という女スリ師と関口刑事との交流を描く。
 昭和2年、池袋の映画館で一人の巾着切りの女が捕まる。彼女の気の毒な身の上を聴き、池袋署の関口刑事は彼女を解き放つ。5年後、このスリの女、波子と関口刑事が再び出会ったのは湯河原温泉であった。波子は右手の人差し指と中指を切断していた。関口刑事が事情を聴くと…。

【解説】
 昭和2年春。池袋の映画館で一人の巾着切りの女が捕まる。捕らえたのは池袋警察署の刑事、関口為吉。捕まった女の名は松尾波子。元はこの劇場の従業員であった。波子には病身の父親がおり、劇場の支配人も「この子は気の毒な身の上なのです」と言う。二度とこんなことはしないようにと波子は関口刑事から説諭され、その場は放免された。
 昭和7年。関口は捕り物で大怪我を負い、湯河原の温泉で療治している。そこで部屋に入ってきたカミソリ売りの女。女は左手を差し出し、右手を後ろに隠している。この女こそ波子であった。波子は右手の人差し指と中指を根元から切断している。事情を聞くと池袋の映画館から放免された3日後、病身の父親が亡くなる。その後カフェで女給の仕事をしていたがそこで山本茂雄という青年と出会い同棲をするようになる。しかしこの山本という男の正体は関西から流れてきたスリ集団の一人であった。悪い男だとは分かりながらどうしても離れられずズルズルと2人の暮らしが続く。この男は病弱であり窃盗ができなくなった彼に代わり、波子がスリをするようになる。その山本が間もなく亡くなろうという時、これまでの事を詫び自分が死んだら波子には真っ当な道を進んで欲しいと言う。山本は亡くなり、波子はスリから足を洗い、その証にと自らの指2本をカミソリで切断する。以上が波子が語ったことである。
 昭和12年暮れ。関口刑事の兄が田舎から上京し、2人浅草の松屋デパートで買い物をしている。すると兄はがま口を盗まれる。そこで2人が偶然出くわしたのは波子。波子が店の中を廻ると殿様小僧の伝次というかつてのスリ仲間を見つける。関口刑事が相手ではと素直に捕まる伝次。昔の仲間を売ってしまったと泣く波子。波子は今、大森で松葉という小さな飲み屋を開いていると告げ、関口と別れる。
 昭和13年春。関口刑事は捕り物で大森に来ていた。波子から聞いた松葉の店を訪ねる。その店にいた男に聞くと波子は亡くなったという。スリ仲間を売った仕返しに白昼路上でナイフで刺されたという。今日は波子の四十九日である。小さな位牌を前に関口は静かに手を合わせそっと涙するのであった。
 名も無き女性の物語。十二代目田辺南鶴作「彼女の行方」の一席。





参考口演:田辺鶴遊

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